かたち惑星0916

地面に落ちた青葉を掌に載せて愛でることが可能な星の話

大人になると分かる

言葉はあくまで言葉で
人の口から形を保ち現れるのが言葉で
私がいないと始まらないのが言葉だ
言葉がない街に住む私
時々どうでも良い選挙カーが街を駆け巡る
「吉原。吉原勇気。吉原勇気をどうか、どうか。清き、清き一票を。吉原勇気によろしくお願いします」
この街で生まれ
この街で育ち
大人になったものは
みんなどこか違う場所へいく
この土地に居続けるっていうのはどこか不自然だ
不自然な私
音楽も絵画も体育も勉学も社交も労働も親交も宗教も私を何処かへは連れていかない
私は人がいる学校に参加していた
学校は言葉に埋まりすぎて
言葉のない場所がやけに救済を謳ってみえる
例えば、封鎖された屋上だとか、
人気のない誰も座らないベンチだとか、
私はそういう場所にたいそう憧れていたけれど
学生時代にそのような場所へと辿り着くことはなかった。
私は誰かに話しかけられたり、
誰にも話しかけられなかったり
そうして学生という時代を自ら無視した
私は自宅にいる
私の祖父の前の、出会えない先祖が生きた土地の上。
もう言葉が使い尽くした土地
私が話せる誰かと会話できる言葉なんて、
汚たらっしい
誰かを傷つけなければならない
私を殺さなければならない
私が言葉を話そうと思えば
母は逃げていく
祖母を愛していた
母に託せない思いを肩代わりしてくれていた
そんな祖母を寿命より早く殺した母
母は自らの不純を祖母にぶつけ続け祖母を早死にさせた
私の両親と母の両親
二つの家が繋がっている
そんな家に人間は四人
繋がった当初は七人と一匹が暮らしていた
親戚も家に時々存在した
今はもうない
なくなった
有るべきものは肉体が火に溶かされるとともに
消えてしまった
足りない
足りないものが多過ぎる
使われない風呂場
使われない空き部屋
ゴミが散乱する部屋
雑草に覆われた庭
触るのも躊躇われる廃水がぶくぶくと浮いている
急遽設置された廃水補助のペットボトルとバケツ
もうすぐお正月
今年は親戚がやって来るのだろうか
いつまでやってくるのだろう
祖父はいつまで生きていられるのだろう
私はいつまでこうやって死んだ風を気取られるのだろう
私を殺せ
生きるのなんて簡単だよ
だってこんなに生きる世界は存在しているのだから
様々な四苦八苦
青春の涙と笑顔
私は、私は、一体何をしてきたんだろう
私は何になりたいんだろう
何をやりたくて、やりたくなくて
私より多分、私が選ばなかった道を進む人の方が
そのことについて詳しいだろう
私は言葉を失った
私の想像は私だけにしか存在せず
私たちにとって重要なものは共有できるものに限る
自然に妄想と想像は屑となり
限られた素晴らしいものに変化する
全ては反転する
大人の言葉っておかしかったね
なにかを得ている人の言葉なんて影響されなければよかった
大人になった私に、彼らと同じ言葉は存在しない
私は欲望に載って、器を奏で続けられるような
ただ呼吸をし続けられるような
私は大人になることを嫌がりながら、
大人ぶらないとどうしようもなく痛くて
私自身になることはいつも怖い
明日はどうなるんだろう
生きているから決まっている
死んだら決まる
どうやっても決まる
理不尽
子供には分からん
大人になると分かる
時計を失うと分かる
時計なんて時計職人にさえ分からん
分からんことを分かるまで
その言葉がみえないものにだけ
いつもそのような話だった
理不尽
ほんとうに理不尽だ
もうどうでもいいけれども