かたち惑星0916

地面に落ちた青葉を掌に載せて愛でることが可能な星の話

「なんだよ、あいつ。浮浪者か」「最近流行っているからね。気をつけないと」

自宅は結構広いんだよ
僕の祖父が建てたのかな
二階建てだよ
僕は二階に住んでいるよ
二階自室から外の風景を眺めているよ
百メートル先に道路があるよ
車が走っているよ
その間は田んぼと小川があるよ
もっと向こうの向こうは山だよ
ビルなんて見えないね
此処はいわゆる一つの田舎だよ
僕をみないで
人の視線は怖いんだ
車の道の横の歩道なんて誰も歩いていない
奥へと進む歩道には時たま誰かが歩いている
僕をみないで
僕はみているけれど僕をみないで
カーテンを閉めることすら嫌なんだ
視線を外すことすら嫌なんだ
そのままにらめっこすることすら嫌なんだ
手を振ることすら嫌なんだ
微笑むことすら嫌なんだ
窓を開けて五メートル下の自殺防止用に見える屋根に飛び降りるのも嫌なんだ
大声を挙げて威嚇することすら嫌なんだ
全て嫌なんだ
僕をみないで
お願い
お願いですから
僕を見つけないで
僕が埃が見える階段を降りてひっそりとどうしても音が響く洋式の玄関を開けたとき
家と家が挟んでいる一本の道を歩かないで
僕を見ないで
僕の歩行か自転車か
車なんて乗れないよ
車に乗るととち狂った僕は直ぐに他人とぶつかって死ぬからね
自己防衛さ
だから見ないで
外に行かなければ死んでしまう
蔑まないで
拒否しすぎだなんて言わないで
もう充分すぎるほどに言葉は浴びたんだ
誰もそんなことを言っていないなんて言わないで
そんなこと誰よりも知っているのは僕だなんて
言わないで
僕と出会わないで
僕と話さないで
僕を無視して
僕と会話して
僕と仲良くして
僕と友人になって
僕を養って
僕を働かせて
僕と恋人になって
僕と愛を紡いで
僕の子供と出会わせて
僕を殺して
僕を生かして
僕を甘やかせて
僕の母になって
僕の父になって
僕の神になって
僕を認めて
僕になって
僕を殺さないで
生きたいの、生きたいんだよ
どうやったら生きられるというの
僕が生きているなんて言わないで
見ないで見ないで
お願いです
赤信号で止まっている僕をあなたは安全な、どこか違うところへ消えていく車から
見ないでくれ
僕は信号を見ているんだ。正当紛いなき赤なんだ。
君も君も。自転車に乗った男子中学生三人は赤にも関わらず、車の視線が有るにも関わらず
僕は21歳。嘘ではなく21歳。
彼らは僕をみて何を感じただろう。肩と肩が重なり嫌な笑みを浮かべながら僕に謝るブサイクは僕を何と認定しただろう。
誰も歩かないと思った道。僕もこの道を歩んでいた。
信号は青や緑や踊らず、留まっている
男子も女子も中学生がずらりずらりと友達同士固まり合ってくだらない言葉をかわしあっている
何様だよ、俺
涙なんて流さないよ。人に混じって息をするお年頃になってから涙なんて二桁ほども流していない
泣きたいよなぁ。なんでだろ
誰も俺を見ないさ。俺なんて見れないさ
あぁ叫びたい
もう中学生は行ってしまった。信号は僕は此処に留まり続けて何度目かの赤。
別にいいさ。赤でも。
轢かれても文句はいえない。知るか。皆んな関係なく行くんだよ。此処は。
僕は車の様子を見計らいながら進んでいく。
僕を見るな。僕を見るな。
僕は見ないから、僕を見るな。
こんな約束でさえ、守れないなら、
僕は一体何をするんだろう
白い息を吐きながら僕は信号だけがまともに機能する交差点を通過した
此れは1000回目の通過で有る。もちろん僕は数えていない。
君とあなただけの秘密。バラしてもいいよ。情報量無料だから。あらゆるネットワークを駆使していいよ。プーチン大統領に国家緊急事態の名目で伝えてもいいよ。それぐらいの秘密さ。単純にね。