かたち惑星0916

地面に落ちた青葉を掌に載せて愛でることが可能な星の話

風を摘む鳩

頭蓋骨に心地良い土地ではなく
祖先の灰に墜落した気球に刻まれた文字は見えない
西の山から放たれた風に姿を現した活字を手紙に落とした
土地に囚われた弟たちに手紙は託されたがポストには届かなかった
話に聞くところによると手紙は全てため池に溜まり腹を空かしたミドリガメブラックバスに食われたらしい
例えば音符で構成された街
例えばドル札で構成された街
例えば銃弾で構成された街
私の街は諦観で構成されている
「諦観」
私の街の人々に「諦観」という文字はない
私も書けない
小説や随筆や日記や手紙や
全ての文字は風の気分次第
おいしい風の日は文字が全て美味しくなる
美しい風の日は文字が全て美しくなる
戦争の風の日は文字が全て戦争になる
風が吹かないときは文字とはさようならになる
土地に一人小説家がいた
その小説家は人の文章を上手く組み合わせて全く新しいものに見せかけることが上手かった
山に囲まれた私の土地に於いて山の風の掴みかたを一番心得ているのは彼である
土地の誰もが彼のことを詐欺師と呼んでいたが
私は彼のことを好んでいた
彼は山の向こう側ではそこそこ名が売れていて
山を越えることが可能な鳩の喉には
彼が組み合わせた美しい言葉が刻まれている
「コノマチガダイキライダイキライダイキライ」
私はこの土地の山頂に居を構える小説家と話をしたことはない
私が好きだった彼女は山頂で小説家と会話して山の向こうへと消えた
小説家は昨日死んだ
今日土地の一つしかない小学校の百人超の生徒たちは
彼の言葉を被り登校したらしい
先生は全員の言葉を破りゴミ袋に入れたらしい
おかしいな、雨は降っていないのに
窓の外を眺めると何もかもが濡れている
部屋の中は温かいのに
土地は泣いてるみたいだ
「コノマチガダイキライダイキライダイキライ」
鳩は僕の街には似合わなかった筈だ
一体何処から来たんだろう
僕は初めて見た
此れが最後だろう
鳩は僕の土地に存在しない筈の
塗装されたアスファルトの下の
ため池に沈んだ幼女の靴の
川を流れるアシガモ大家族の
蔓に破壊された廃屋の
もう利用されていない古びれた嘗ての小学校の
障子の向こうに埃が積もったアルバムの
山頂の小説家がものに出来なかった土地の人々の
言葉という言葉を摘み
飛んでいった
鳩の羽ばたきに滲んだ風の音が鼓膜に届く
『ワタシハコノマチガスキダダイスキダ』
ごめんなさいごめんなさい。
私の耳にも届いたし喉も震えていた
街の風は全てに通じる
山の向こうにいった彼女も生命をなくした小説家も
みんな同じことを呟いただろう
ごめんなさい。
鳩は山の向こうへと消えた
土地は家と森と田んぼと川と私を残して消失した
それでも私は呟ける
「私はこの街が好きだ大好きだ」
祖先の灰もまた鳩は摘んだようだ